【あらすじ】
織田信長の寵愛を一身に受けながらも、なぜか満されない美少年・森蘭丸と、その心を捕えて離さない異形の忍び恵慶…常に死と隣りあわせの、自からの力だけを頼りに生きなければならない戦国の世を生きる二人の、命を賭けた契りは安土城の闇に燃え、本能寺の紅蓮地獄のなかでも互いを求め合うのか…。
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【感想】
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クリスタル文庫からは、こんなに渋い作品も出ていたのですね。本能寺の変の前年からを描いたものですが、表向きはドライなのに、実は物凄く情熱的なツンデレお小姓の蘭丸に萌えました。織田信長の寵愛を受ける裏側では間者の恵慶と燃え上がっていたり(しかも蘭丸から積極的に関係を持っていたり)、明智光秀(曰く、老いらくの恋で蘭丸に心を奪われてしまった)に手を出されそうになったりと大変です。
主君・信長との関係を義務としてドライに受け止め、口説いてくる光秀に対しては手酷く突っ撥ねる癖に、恵慶が絡むと情熱が昂り過ぎて見境無し。主君の目を盗みながらの逢瀬は、蘭丸を盛り上げる一方です。恵慶に対する燃え上がり方は尋常ではありません。(笑)
蘭丸さん。普段は冷静で本当にツンツンツンツンしているのですよ。「デレ」がゼロに思える位のツンツン振り。それにも関わらず、愛する恵慶に関してだけは、情熱的な乙女になってしまいます。それこそ、「
ミスター・ロマンチストの恋」の乙女クマの乙女振りにも匹敵するかも知れません。恵慶に関してだけは一途で、それこそ「お前しかいらない」位のぞっこん振り。
その上アレですよ。公式の場においての二人の関係は、蘭丸が主で恵慶が臣下。しかし、私的な時間になれば立場は逆転。しかもしかも。閨では恵慶に甘えてしまう事もある癖に、ツンデレ気質が災いする蘭丸は、「一方的な服従」をする事には抗います。何処までも天邪鬼っ子ですよ。(笑)
恋人としての二人の関係にも萌えましたが、それ以外の面の二人の関係にも萌えました。恵慶は忍びとしては優秀な男で、その力量は信長等の諸将のようにのし上る事への可能性も秘めている。しかし、それを許さないのが蘭丸です。恵慶が武人として立身出世を望んだ場合、当然自分の元から離れていってしまう。場合によっては、敵対者にも成り得る。それを思うと侍として取り立てる事が出来ない。恵慶もまた、蘭丸を恋人として愛しているので、侍になろうとは思わず、蘭丸に仕える忍であろうと言う姿勢を取り続ける。
恋人であって欲しい気持ちと、出世をして貰いたい気持ちがある。けれども蘭丸は、恋人としての恵慶を失いたくは無い。関係を続ける事は、恵慶の為には良い事なのか、悪い事なのか。それ位の葛藤はしているでしょうが、やはりここはと、自分の情熱を優先してしまう。
作中の今で情熱的な逢瀬を続ける二人ですが、過去に初めて契りを交わすシーンにガン萌えしていました。(笑)十も年下の蘭丸から不遜な態度で指名されますが、優男の恵慶は大人の余裕がある訳ですよ。現在のBLのように、濡れ場の一通りが描写をされる事はありませんが、事前の睦言や交わす会話だけでも萌えられるとは思いもしませんでした。
己が搭載する脳の腐フィルターのアクの強さに厭きれたものですが、重厚な歴史ものに絡めた作品だけに、仕上がりはとても上品です。
光秀との関係を悪化している所で、恵慶が刺客に狙われると言う、蘭丸にとっては気が気ではない展開もありますが、狙われても死なずに済んだ恵慶を目にした蘭丸が、年齢に見合った少年として泣きじゃくったシーンにもガン萌えしてしまいました。前半から中盤にかけては、妙に大人びて冷静で、自分を寵愛する信長にすらドライな感情を見せて戦略的に生きる子が、幼さを感じさせる程に泣いてしまうのは行けません。普段のツンツンツンツンツンデレっ子の思わぬ一面の登場に、思わず本気で萌え滾ってしまいました。
勿論、蘭丸を寵愛する信長視点も展開されます。泣いている蘭丸を目にした際には、五十歳を前にした信長が傷心をしています。信長はずっと、「例え主君の立場でなくとも、少しぐらいは蘭丸に愛されているだろうと考えていた」のですが、その思いが完全に裏切られてしまった事を知る。自分は本気で寵愛をしていたのに、蘭丸からは豊潤な愛情を得られなかった事で孤独を感じてしまいます。傷心するお館様の気落ちがもう、哀愁が漂いまくっている訳です。「オッサンの傷心」が切なげに描かれていますが、そんな信長にうっかり萌えてしまった事はここだけの秘密です。
色々な波乱は続き、そして話題も飛びまくって恐縮ですが、恵慶は信長の暗殺に失敗。元々は蘭丸と組んだ上での暗殺でしたが、直前の蘭丸の裏切りによって暗殺は失敗。愛する蘭丸に裏切られた恵慶は光秀に接近。これを皮切りに波乱は本格的なものとなり、本能寺の変に突入して行きます。
恵慶に狙われた信長を庇った蘭丸は恵慶に刺されて命を落としますが、この時の恵慶の心情が泣かせます。自分を裏切ったはずの蘭丸を憎み切れず、忘れられず、愛し続けていた。複雑な心境のままで愛する人を自らの手で殺してしまった男の悲哀が生々しい。
カタルシス全開のJUNE展開で話に幕が下りるかと思いきや、まだまだ続きがありました。蘭丸の首を手に入れた光秀が変態です。死に化粧を施した蘭丸の首を眺めながら酒を嗜み、尚且つ、その唇に唇で触れようとする。正気の沙汰とは思えない、ややネク○フィリア的な展開が、こうした作品で登場するとは思えなかったので驚きも一入。
光秀の元から恵慶は蘭丸の首を奪い、その後も波乱は続きますが、本能寺の変を経て二十日近い日が経っても蘭丸の首が腐敗をしなかった事が、不思議と切なさを醸し出していました。
「光秀謀反の真相は、森蘭丸への懸想が原因だった」
「ショッキングな本能寺の変を利用して、ひとつのフィクションを作り出したかった」と、市川先生のあとがきで言及されていますが、物語の着想は光秀、蘭丸を軸に物語を展開して行く内に、主役が忍の恵慶になると言う、話の裁き方が面白かったです。生真面目な人間程、型破りな人間に惹かれてしまう。蘭丸が惚れた恵慶は、それはそれは型破りな人間でしたが、恵慶の”最期”が具体的に描かれないままで終わっているのがミソ。あとがきから考えると、あきらかに意識的にそうした結末を用意されている人物ですが、耽美ものとしても、歴史改変ものとしても面白い仕上がりとなっています。
花嵐に散るがごとく ―恵慶と蘭丸―(bk1)
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