【あらすじ】
従兄弟の氷見啓介が田舎から上京してきた。なし崩しに面倒を見ることになった誠一は、アパート探しを手伝いながらも、実は気まずい思いだった。十年前の夏、啓介に心酔した誠一は、「高校を卒業したら迎えにくる」と約束したまま、戻らなかったのだ。相変わらずのダサいメガネ、髪形、服装にうんざりしつつも、誠一は再び欲望のままに啓介を抱くようになる。しかし啓介は優しく受けとめるだけで…。
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【感想】
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うっかりしている内に、当ブログでの木原作品の感想も28本目。思いの他木原作品に手を出していた自分に驚きました。長らく旧版が手に入らない状況が続いていた今作ですが、この度の新装復刊はありがたいものでした。
原作の旧版が手に入らなかった私は、先に「
ergo Vol.1 〜木原音瀬セレクション〜」のコミカライズ版で作品をチェックしていましたが、やはり文章で読めると嬉しさも一入。
収録作は4作。前半の2編が、従兄弟同士カップル。後半の2編が、前半に登場したカップルの受の息子(!)のお話ですね。
まずは前半2編。従兄弟の啓介が田舎から上京する。家業の旅館を継ぐ前に、知り合いのホテルで経営を勉強する為だった。誠一は啓介に対して後ろめたさを感じていた。10年前の夏、啓介と恋に落ちた誠一は、高校を卒業したら、啓介を迎えに行くと約束をし、反故にしたから。しかし再会した啓介は、過去には触れず優しい笑顔で誠一に微笑むだけだった。責められない事で安心した誠一は、優しく抱き締め甘えさせてくれる啓介のもとに頻繁に通うようになる。誠一は啓介の身形を自分好みに整え、都合の良く利用する。際立つ容姿を持つ女を手に入れる為にも、啓介の存在を利用した。女とも手を切らず、啓介とも関係を続ける中、女には捨てられた。啓介も田舎に帰ってしまった。同時に二人を失い、啓介への自分の本心に気付いた啓介だったが、既に時は遅く、啓介は故郷の女性との結婚を決めていた。
啓介側の視点でも触れられますが、啓介が上京した理由は、ホテルで経営の勉強をする以前に、「誠一と何処かですれ違うかも知れないという可能性」を考えての事だった。10年前の恋を忘れられない啓介は、ささやかな可能性に期待を込めて上京したが、予想外の結果が出た。誠一の性格を知り過ぎるあまり、自分は誠一を愛する事が出来ても、誠一は自分を愛してくれると言う自信は無かった。
誠一に求められる事で見返りを求めない愛を注いだ啓介と、啓介の気持ちに気付かないままで彼を利用し、手の届かない存在になった後、自分の啓介への想いに気付いた誠一の、詰まる所は一つの想いで繋がっているのに、すれ違って出来た溝は深い。
5年後、啓介は妻に別れを切り出される。5年前に啓介への自分の想いに気付いた誠一は、ずっと待ち続け、啓介の離婚を知って迎えに行く。家業の旅館営業を取り止めた啓介は、再上京。誠一を同棲を始める。しかし、啓介の新しい仕事先で出逢う柊の存在、啓介の元妻の事故死が重なる。残された子供の貴之と、誠一を比較した後、貴之を疎んじてしまった啓介だったが、誠一への想いは強い。父親である前に、誠一の恋人としての立場を重んじてしまう様子は深刻なものを秘めています。しかし、ここでの啓介を罵倒出来るかと考えると複雑な気持ちになりますね。元々、貴之を愛していた啓介でしたが、身勝手な妻の意志で貴之から引き離されていますからねえ。妻子が去り、独り身の寂しさに埋もれている所で迎えにやって来た誠一は、5年前とは大きく変わり、啓介に対して真摯に向かい合うようになっているのは救われますが。
妻の身勝手で貴之を取り上げられながら、誠一の恋人として新しい人生を歩み始めた所で、再び手元に貴之が戻って来る。それまでの流れから考えても、貴之を疎んじてしまった啓介を一方的に責める事は出来ないのですよね。父親としては失格かも知れないけれども、元々の啓介は、妻子との暖かな生活を大切にして、望まないままに取り上げられてしまった訳ですから。とは言え、貴之が手元に戻って来た事は嬉しいと感じている。貴之に対する義務感から、誠一との恋人関係を解消しようとするものの、最終的には解消出来なかった愚かさも責める事は出来ません。
結果として、啓介は父親としての自分の不甲斐なさを痛感しながら貴之を引き取る事になり、貴之もまた、男の恋人を優先する啓介からの、父親からの愛情に飢えてしまう。貴之の立場で物事を考えると、啓介は本当に最低の父親なのですよね。母を亡くして日も浅く、まだまだ心細い所で、父親と恋人のセックスを見せられてしまいますし。その上、3人で生活をする事になってしまう。奇妙な3人での生活の中で長く暮らす内に、当然のように、世間的な平均としての倫理観は歪んでしまう。
父親からの愛情が欲しいのに、父親は恋人を優先する。息子である貴之を大切にしてはくれるけれども、心の底から愛されている実感には薄い。家庭の現実から逃避をする為、成長した貴之は柊(誠一×啓介編で登場した、性根の歪んだ妙な男)の元を訪れるようになる。アクシデントで柊に抱かれた貴之ですが、このカップルも簡単には纏まりませんねえ。父親達の恋人関係を目にしていたせいか、男同士と言う事に対しては、(小さい頃からの刷り込みの弊害的に)割と寛容な姿勢を見せている様子が切ない。大人と中学生と言う関係から始まり、出逢いから数年以上を経て、漸く恋人同士に落ち着きますが、物凄く微妙な状況のハッピーエンドに落ち着くのですよね。一度は離れ、数年後に再会した二人ですが、柊が貴之に送った写真が大きな意味を持つような気がしますが、敢えて曖昧な最後が用意されている事で、憶測は尽きません。
しかし、息子に対する愛情不足を痛感している啓介と、大人になって啓介達の事を、以前よりも理解し始めている貴之。この二人の親子関係は、長い時間をかけて、少なくとも作中の関係以上には良い形になるような気がします。
沢山の曖昧さを残した作品ですが、人の心の弱さや純粋さ、苦悩・葛藤が隠れているからこその曖昧さだと言う部分が理解出来ます。内容に薄いままで曖昧に終わってしまうのでは無く、意味深に色々なものが見え隠れする曖昧さがあるので、有限で変わってしまう事もある人の心の動きが、とてもリアルに感じられるのだと思います。
さようなら、と君は手を振った(bk1)
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